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2025.12.23 D&O保険(会社役員賠償責任保険)

パワハラや未払い残業代請求などの労務トラブルから役員個人を守るには?D&O保険などによる備え【弁護士執筆】

パワハラや未払い残業代請求などの労務トラブルから役員個人を守るには?D&O保険などによる備え

会社においては、ハラスメントや残業代の未払いなど、さまざまな形で労務トラブルが噴出するリスクがあります。
労務トラブルが発生した場合、会社だけでなく役員個人も損害賠償責任を負うことがあるので要注意です。D&O保険への加入などにより、予期せぬ労務トラブルに備えましょう。
本記事では、会社における労務トラブルから役員個人を守る方法などを解説します。

1. 会社が抱えがちな労務トラブルの具体例

会社の経営において、従業員との労務トラブルは最も発生頻度が高いトラブルの一つです。特に以下のような労務トラブルは、どの会社でも発生する可能性があるので十分ご注意ください。

①ハラスメント|セクハラ・パワハラ・マタハラなど
②残業代の未払い
③不当解雇
④不当な雇止め

1-1. ハラスメント|セクハラ・パワハラ・マタハラなど

「ハラスメント」とは、相手が嫌がることをして不快感を覚えさせる行為です。特に職場においては、以下のハラスメントが問題になります。

職場におけるハラスメントの主な種類 概要
セクシュアル・ハラスメント
(セクハラ)
性的な言動に対して否定的な反応をした労働者に不利益を与えること、または性的な言動によって労働者の就業環境を害すること
パワー・ハラスメント
(パワハラ)
優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動により、労働者の就業環境を害すること
マタニティ・ハラスメント
(マタハラ)
妊娠・出産・育児に関する不当な言動により、女性労働者の就業環境を害すること
パタニティ・ハラスメント
(パタハラ)
育児に関する不当な言動により、男性労働者の就業環境を害すること
会社は、職場におけるこれらのハラスメントを防止する措置を講じなければなりません。
業務執行取締役はハラスメント防止措置の意思決定を実践を行い、その他の取締役や監査役は監督を行う責任を負います。

1-2. 残業代の未払い

残業や休日出勤をした従業員に対しては、その時間数に応じて残業代を支払わなければなりません。しかし実際には、計算方法が間違っている、残業時間が正確に把握できていないなどの理由で、残業代が未払いとなっているケースが散見されます。

未払いの残業代は、過去3年間遡って請求できます。長期間にわたる未払い残業代を請求されると、多額の支払いを強いられるおそれがあるので要注意です。

会社の規模が大きくなってくると、残業代の管理は、人事業務を担当する従業員に任せているケースも少なくありません。しかしこの場合でも、役員は従業員の業務を監督し、不適切な点があれば指導を行って是正することが求められます。
したがって、残業代の未払いが発生している場合には、役員個人にもその責任の一端があると言わざるを得ません。

1-3. 不当解雇

会社が従業員を解雇することは、法律によって厳しく制限されています。会社から支払われる給与に生活を依存している従業員にとって、解雇は重大な不利益を伴うためです。

会社が従業員を解雇するためには、客観的に合理的な理由があり、解雇が社会通念上相当と認められることが必要です。この要件を満たさない解雇は無効となります(労働契約法16条)。

従業員が業務上のミスをしたとしても、それを理由とする解雇が認められるケースは少数です。きわめて重大なミスをした場合や、改善指導を受けたにもかかわらず直す気がない場合などに限って解雇が認められます。 不当解雇された従業員は強く反発し、解雇の無効や解決金の支払いを求めてくるケースが少なくありません。

従業員の解雇は重大な問題であるため、直属の上司や人事担当者などに任せるのではなく、役員も関与して意思決定を行うことが求められます。不当解雇をした場合は、当然ながら役員個人にもその責任の一端があることになります。

1-4. 不当な雇止め

雇用期間が決まっている契約社員(=有期雇用労働者)について、期間満了時に会社側から雇用契約を打ち切ることは「雇止め」と呼ばれています。

雇止めは解雇よりも緩やかに認められますが、常に認められるわけではありません。以下のうちいずれか満たす場合に、従業員側から契約更新の申込みがあった場合は雇止めが認められず、雇用契約が更新されます(労働契約法19条)。

①雇用契約が過去に反復して更新されたことがあり、雇止めが解雇と社会通念上同視できると認められること。
②従業員が雇用契約の更新を期待することについて、合理的な理由があると認められること。

また、有期雇用の期間が5年を超えている場合は、従業員は無期雇用契約への転換を請求できます。会社側は無期転換の申込みを拒否できず、期間満了日の翌日から無期雇用契約に転換されます(同法18条)。

これらのルールを無視して雇止めをすると、従業員から雇止めの無効を主張されるおそれがあるので注意が必要です。不当解雇と同様に、不当な雇止めについても、取締役や監査役などの役員は責任を負う可能性があります。

2. 労務トラブルについては、役員個人が責任を負うこともある

従業員との労務トラブルが発生した場合、主にその責任を負うのは会社です。しかし、会社とともに役員個人が責任を負うこともあります。

実際に、従業員が会社に加えて、役員個人に対しても訴訟を提起するケースが少なくありません。また、会社が従業員に対して損害賠償を支払った後、その額の支払いを役員個人に対して求めるケースも見られます。

2-1. 役員等の第三者に対する損害賠償責任|従業員の損害も対象

(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第四百二十九条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

引用:e-gov法令検索 会社法

取締役や監査役などの役員は、その職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた責任を賠償しなければなりません(会社法429条1項)。

「第三者」とは、会社と役員等を除く者を指します。会社の従業員も「第三者」に当たります。
たとえば、役員自身が従業員に対するハラスメントを主導した場合や、常習的な残業代の未払いを知りながら見逃していた場合などには、その役員が従業員に対して損害賠償責任を負う可能性が高いです。

なお、役員個人が従業員に対して損害賠償責任を負う場合は、会社もその従業員に対して損害賠償責任を負うケースが多いと思われます。
この場合、会社と役員個人はその責任の割合に応じて、損害賠償責任を分担します。ただし従業員は、自分が被った損害の範囲内で、会社・役員個人のいずれに対しても損害賠償の全額を請求できます。

たとえば、ハラスメントによって従業員が100万円相当の損害を被り、その責任を会社と役員個人の両方が負うとします。
従業員は、会社に対して100万円全額を請求することも、役員個人に対して100万円全額を請求することもできます。会社に対して60万円、役員個人に対して40万円などと分けて請求することも可能です。
会社と役員個人の間では、責任の割合に応じて損害賠償額の精算を行います。

2-2. 会社に生じた損害も、役員個人が賠償すべき場合がある

従業員自身は役員個人に対して損害賠償などを請求しなかったとしても、役員個人が責任を免れるとは限りません。任務懈怠を理由に、会社が役員個人に対して損害賠償を請求する余地があるためです(会社法423条1項)。

特に創業者やその親族など以外の株主が多い会社では、株主代表訴訟などを通じて、役員個人の任務懈怠責任を追及される可能性が高いので注意を要します。

2-3. 名目的な取締役にも監督義務がある|損害賠償責任を負うリスクあり

小規模な会社においては、代表者の親族などが名目的な取締役として登記されているケースがあります。
名目的な立場であっても、対外的には取締役であることに変わりがありません。ハラスメントなどの労務トラブルが発生した際には、名目的な取締役もその監督義務違反を問われ、損害賠償責任を負うリスクがあるので十分ご注意ください。

2-4. 労務トラブルに関する損害賠償等の金額目安

労務トラブルに関して、会社または役員個人が従業員に支払う損害賠償等の目安額は、以下のとおりです(実際の支払額は、事案によって異なります)。

労務トラブルの種類 会社や役員個人が支払う額の目安
ハラスメント 50~200万円程度
残業代の未払い 100~300万円程度
不当解雇、不当な雇止め 200~500万円程度
残業代の未払いや不当解雇、不当な雇止めについては、従業員の年収が高い場合はより大きな金額が問題となります。1000万円以上の支払いを余儀なくされることもあり得るので、十分注意しなければなりません。

3. 和解交渉や訴訟の際には、弁護士費用も必要になる

労務トラブルについて、従業員との間で和解交渉や訴訟などを行う際には、弁護士に依頼するのが一般的です。その場合は、弁護士費用を支払う必要があります。

弁護士費用の額はトラブルの種類や係争額などによって異なりますが、おおむね以下の金額が目安となります。

着手金 請求を受けた額の5~8%程度
報酬金 支払いを免れた額の10~16%程度
労務トラブルではほとんどの場合、会社や役員個人は従業員に対して金銭を支払う側となります。そのうえ弁護士費用までかかるので、大きな経済的負担となってしまいます。

4. 労務トラブルによる損害賠償責任から役員個人を守る方法

株式会社の役員にとって、労務トラブルによって損害賠償責任を負うことは大きなリスクとなります。安心して役員に就任してもらうためには、以下の対策などを検討するとよいでしょう。

①会社と役員が補償契約を締結する
②会社と役員が責任限定契約を締結する
③会社がD&O保険に加入する

4-1. 会社と役員が補償契約を締結する

役員が第三者に対して負う損害賠償責任等は、会社が役員と「補償契約」を締結すれば、会社が補償することが認められます(会社法430条の2)。
補償契約の締結に当たっては、株主総会決議(取締役会設置会社では、取締役会決議)が必要です。

ただし、役員の会社に対する任務懈怠責任や、悪意または重大な過失による損害賠償責任は、補償契約による補償の対象外となります。

4-2. 会社と役員が責任限定契約を締結する

業務執行取締役以外の役員(=非業務執行取締役等)との間では、会社は定款の定めに従って「責任限定契約」を締結することができます(会社法427条)。

責任限定契約を締結している場合、非業務執行取締役等が会社に対して負う任務懈怠責任は、定款で定められた額までに限定されます。ただし、責任限度額を年収の2倍未満とすることはできません。

なお業務執行取締役については、責任限定契約を締結することができません。

4-3. 会社がD&O保険に加入する

補償契約や責任限定契約には、会社法に基づく制約があるため、役員個人が損害賠償責任を負うリスクを十分にカバーできないケースも多いです。役員個人の損害賠償リスクを柔軟かつ幅広くカバーしたいなら、「D&O保険」への加入を検討してみましょう。

「D&O保険」とは、役員の会社に対する任務懈怠責任や、第三者に対する損害賠償責任を補償する保険です。
犯罪行為や故意の法令違反などを除き、幅広い損害賠償責任がカバーされます。責任限定契約とは異なり、業務執行取締役でも加入できます。弁護士費用も補償されるのが一般的です。

D&O保険には、会社が加入します。役員が安心して就任できるようになり、優秀な人材を招聘しやすくなるので、会社にとってもD&O保険への加入にはメリットがあると思われます。

5. まとめ

従業員を雇用している会社は、常に労務トラブルのリスクに晒されています。多額の損害賠償責任を負うことがあるほか、和解交渉や訴訟に当たっては弁護士費用もかかるので、深刻な経済的負担が生じるおそれがあります。

労務トラブルに関する損害賠償等の責任は、役員個人も負うケースが少なくありません。損害賠償等のリスクを心配することなく、安心して役員に就任してもらうためには、会社として一定の対策を講じることが望ましいです。

D&O保険は、役員個人を労務トラブルによる損害賠償等のリスクから守るための有力な手段です。幅広いトラブルのリスクがカバーされるので、未加入の企業はD&O保険への加入をご検討ください。
著・監修:阿部 由羅(あべ ゆら)

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。


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