
「D&O保険」は、役員の損害賠償責任などをカバーするために企業が加入する保険です。D&O保険に加入していれば、役員に就任する人にとって安心感が生まれて優秀な人材を確保しやすくなるとともに、思い切った経営判断がしやすくなります。
「顧問弁護士がいればD&O保険は要らない」と考える企業もあるようですが、必ずしも正しい考え方とはいえません。顧問弁護士とD&O保険は役割が異なるため、併用した方がより安心です。
本記事では、顧問弁護士とD&O保険の役割の違いや、両者を併用した方がいいケースなどを解説します。
1. 顧問弁護士がいてもD&O保険に加入すべきか?
顧問弁護士と契約すると、法的リスクの予防に役立つとともに、実際にトラブルが発生した際にもスムーズに対応できるメリットがあります。しかし、顧問弁護士がいても法的トラブルが発生するケースはあります。状況によっては、役員が多額の損害賠償を請求される事態にもなりかねません。
役員が損害賠償請求を受ける事態に備えるためには、企業が「D&O保険(Directors and Officers Liability Insurance)」に加入しておくのが安心です。
特に潜在的に大きな法的リスクを抱えている企業では、顧問弁護士がいる場合でも、D&O保険に加入した方がよいと考えられます。
2. 顧問弁護士とD&O保険の役割の違い
顧問弁護士とD&O保険は役割が異なり、併用すると両方のメリットを享受することができます。2-1. 顧問弁護士の役割|法的リスクの予防・対処
顧問弁護士の役割の一つは、企業が抱える法的リスクの予防についてアドバイスやサポートをすることです。企業が事業を運営するに当たっては、さまざまな法的リスクに直面する可能性があります。たとえば契約書の内容に不備があったり、法令を遵守していなかったりすると、法的リスクが顕在化して深刻なトラブルが生じる可能性が高まってしまいます。
顧問弁護士は、契約書のチェックや法令遵守に関するアドバイスなどを通じて、法的リスクができる限り顕在化しないようにする役割を担っています。
また、企業において実際にトラブルが発生した際にも、顧問弁護士と契約していれば対処法についてスムーズに相談することができます。
顧問弁護士は顧問先企業の実情をよく理解しているので、付き合いのない弁護士に相談する場合よりも適切なアドバイスを受けられる可能性が高いと考えられます。
2-2. D&O保険の役割|トラブル発生時の役員の保護
D&O保険の役割は、企業経営に関して発生したトラブルにつき、その責任を追及された役員を保護することです。企業内で不祥事などが発生すると、役員は株主代表訴訟などによって多額の損害賠償を請求されるおそれがあります。不祥事の内容や規模によっては、役員が数千万円から数億円以上の損害賠償責任を負うこともあり得ます。
D&O保険に加入していると、役員が負う損害賠償責任や、責任を追及された際に対処するための弁護士費用などが保険によってカバーされます。
被害者に対する損害賠償責任を果たすことができる一方で、役員個人が多額の支出を強いられることがなくなります。
このように、顧問弁護士は企業が抱える法的リスクの予防や対処をサポートするのに対して、D&O保険は実際にトラブルが発生した際に役員を保護するためのもので、それぞれ役割が異なります。
顧問弁護士がいれば、法的トラブルによって役員が責任を負うリスクは小さくなるものの、そのリスクが全くなくなるわけではありません。
次の項目で解説するように、顧問弁護士がいても法的トラブルが発生するケースはあるので、もしもの場合に備えてD&O保険にも加入しておくのが安心です。
3. 顧問弁護士がいても、法的トラブルが発生するケース|D&O保険が役立つ
顧問弁護士と契約していても、たとえば以下のような場合には、法的トラブルが発生してしまうことがあります。これらの場合には、役員の損害賠償責任をカバーするD&O保険が役立ちます。
①顧問弁護士の判断やアドバイスに誤りがあった場合
②顧問弁護士に対する情報提供が不十分だった場合
③顧問弁護士のアドバイスに従わなかった場合
④自社側に非がないのに訴訟を起こされた場合
②顧問弁護士に対する情報提供が不十分だった場合
③顧問弁護士のアドバイスに従わなかった場合
④自社側に非がないのに訴訟を起こされた場合
3-1. 顧問弁護士の判断やアドバイスに誤りがあった場合
顧問弁護士は法律や危機管理などに関する知識と経験を有するものの、その判断やアドバイスが100%適切であるとは限りません。時として、顧問弁護士が誤った判断やアドバイスをしてしまうケースも想定されます。顧問弁護士の判断やアドバイスの誤りが原因で不祥事が発生しても、被害者に対して第一義的に責任を負うのは企業です。企業が支払う損害賠償は、任務懈怠責任という形で役員個人に転嫁されることもあります。
また、役員に重大な過失がある場合には、役員自身が被害者の損害を賠償しなければなりません。
顧問弁護士に対して損害賠償を請求する余地はありますが、全額回収できることはまずないと思われます。
そんなときは、D&O保険が役立ちます。役員が負担する損害賠償責任が保険によってカバーされるので、予期せぬ多額の支出を迫られるリスクを抑えることができます。
3-2. 顧問弁護士に対する情報提供が不十分だった場合
顧問弁護士は、企業から提供を受けた情報を基にしてアドバイスを行います。したがって、企業が顧問弁護士に対して提供する情報が不十分だと、適切なアドバイスを受けることができません。たとえば、法令によって規制されている事業を行っていることを顧問弁護士に伝えていなければ、必要な手続きや遵守事項についてアドバイスを受けられません。その結果、規制当局から業務停止などの行政処分を受けてしまうおそれがあります。
契約書を締結する際にも、事務処理の手間や弁護士費用を軽減したいなどの理由で、顧問弁護士にチェックを依頼しないケースがしばしば見受けられます。この場合、不適切な契約条項が残ってしまい、後に契約トラブルが生じるリスクが高くなります。
顧問弁護士に対する情報提供が不十分だったことが一因となって発生した不祥事については、役員が責任を負うケースも相応にあると考えられます。D&O保険に加入していれば、このような場合に生じる役員の責任も保険によってカバーされるので安心です。
3-3. 顧問弁護士のアドバイスに従わなかった場合
顧問弁護士のアドバイスは大いに参考とすべきであるものの、企業がそれに従う義務を負うわけではありません。時には役員の判断により、顧問弁護士のアドバイスに従うことなく業務を進めるケースも散見されます。顧問弁護士のアドバイスに従わない場合は、法令違反や契約違反などによって不祥事が発生するリスクが高まります。独断で不適切な判断をした役員は、企業から任務懈怠責任を追及されたり、被害者から損害賠償を請求されたりするおそれがあります。
こうしたケースでも、多くの場合はD&O保険による補償の対象になります。顧問弁護士のアドバイスは尊重することをお勧めしますが、時として冒険的な経営判断をすることがあると自覚している企業は、D&O保険に加入しておいた方が安心です。
3-4. 自社側に非がないのに訴訟を起こされた場合
企業が多数の顧客などと関わる中では、自社側に全く非がないにもかかわらず、言いがかり的に訴訟を起こされてしまうリスクが避けられません。役員についても、理不尽な形で損害賠償を請求されるリスクが常に伴います。相手方の主張がどんなに不合理でも、適切に対応しなければその主張が認められ、損害賠償責任を負うことになってしまうおそれがあります。それを避けるためには、費用をかけて弁護士に依頼せざるを得ないでしょう。
このような場合にも、D&O保険に加入していれば補償を受けることができます。理不尽な訴訟に対応するための弁護士費用などが、保険によってカバーされるので安心です。
4. 顧問弁護士とD&O保険を併用するメリット
顧問弁護士と契約する一方で、D&O保険にも加入することには、主に以下のメリットがあります。これらのメリットが大きいと感じる場合は、D&O保険への加入を検討してください。
①法的リスクに対して二重の備えができる
②役員に就任する人にとって安心感が生まれ、優秀な人材を確保しやすくなる
③思い切った経営判断がしやすくなる
②役員に就任する人にとって安心感が生まれ、優秀な人材を確保しやすくなる
③思い切った経営判断がしやすくなる
4-1. 法的リスクに対して二重の備えができる
顧問弁護士と契約していれば、法的リスクが顕在化しないように予防策を講じることができますし、実際にトラブルが発生した際にもスムーズに相談することができます。しかし、何らかの原因でトラブルが発生した際の役員の責任までは、顧問弁護士が補填してくれるわけではありません。その部分をカバーするのがD&O保険です。
顧問弁護士とD&O保険を併用すれば、法的リスクに対して二重に備えることができます。
4-2. 役員に就任する人にとって安心感が生まれ、優秀な人材を確保しやすくなる
企業がD&O保険に加入していれば、役員に就任する人にとっては、何らかの不祥事が発生しても保険によって損害賠償責任がカバーされるという安心感が生まれます。損害賠償のリスクに関する不安を解消すれば、役員に就任する際の心理的なハードルが下がります。その結果、優秀な人材を役員として迎え入れやすくなるでしょう。
4-3. 思い切った経営判断がしやすくなる
損害賠償のリスクを気にしすぎると、役員はリスクをとった経営判断がしにくくなります。リスクをとる必要がある場面で萎縮してしまうと、企業の成長スピードは鈍くなってしまいます。D&O保険に加入していれば、経営判断に失敗して損害賠償責任を負うことになっても、保険によって支払われるので安心です。役員は適切なリスクテイクがしやすくなり、結果的に企業の成長に繋がる可能性があります。
5. 特に顧問弁護士とD&O保険を併用した方がいい企業の特徴
特に以下に挙げるような状況にある企業は、顧問弁護士と契約するだけでなく、D&O保険にも加入することをお勧めします。
①上場企業や上場準備中の企業
②外部株主(VC・ファンド等)から出資を受けている企業
③事業の性質上、訴訟リスクが高い企業
④大胆・迅速な経営判断が求められる企業
⑤急成長中で拡大期にある企業
⑥M&Aを行う企業
総じて、ステークホルダーの多い企業や、リスクの大きな経営判断をすることがある企業は、D&O保険に加入する必要性が高いと考えられます。顧問弁護士と契約しているからといって安心することなく、D&O保険への加入を検討してください。
②外部株主(VC・ファンド等)から出資を受けている企業
③事業の性質上、訴訟リスクが高い企業
④大胆・迅速な経営判断が求められる企業
⑤急成長中で拡大期にある企業
⑥M&Aを行う企業
6. D&O保険を選ぶ際のチェックポイント
企業が加入するD&O保険は、以下のポイントに注目して選ぶとよいでしょう。
①支払限度額は十分か
②弁護士費用なども補償されるか
③免責事項の内容
D&O保険については、役員が必要な補償を受けられるかどうかが最も重要です。支払限度額や損害賠償以外の補償(弁護士費用など)、免責事項(補償されない費用)などを確認したうえで、補償が充実しているD&O保険を選ぶとよいでしょう。
②弁護士費用なども補償されるか
③免責事項の内容
もっとも、補償が充実しているD&O保険の保険料は高くなる傾向がある点に注意が必要です。補償の充実度と保険料のバランスを考慮し、自社のニーズに合ったD&O保険を選びましょう。
7. まとめ
顧問弁護士と契約していても、不祥事や法的なトラブルが発生するリスクをゼロにすることはできません。大規模な不祥事などが発生すると、役員は多額の損害賠償責任を負うおそれがあります。そのような事態に備えるためには、D&O保険に加入するのが安心です。D&O保険は、顧問弁護士との契約だけでは防ぎきれないリスクを補完的にカバーするものです。企業がD&O保険に加入していれば、役員に安心感が生まれ、優秀な人材を招聘しやすくなります。また、役員が経営判断を行う際にも、リスクをとった大胆な判断がしやすくなり、企業の成長スピードを加速させることに繋がるでしょう。
特に多くのステークホルダーを有する企業や、リスクの大きな経営判断をするケースが多い企業は、顧問弁護士と契約するだけでなく、D&O保険にも加入することをお勧めします。補償の充実度と保険料のバランスを考慮しつつ、自社のニーズに合ったD&O保険への加入を検討してください。




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