善管注意義務とは
「善管注意義務(民法644条)」とは、社会通念上あるいは客観的に見て委任された人の職業や社会的地位などから当然要求される注意を払う義務のことです。受任者は誠実に職務を遂行し、注意義務を尽くさなければならないとされています。
会社の取締役は、会社法330条で会社から経営を委任されている立場のため、経営者として誠実に職務を遂行し、注意義務を尽くさなければならないという責任を負っています。
また、会社法423条では、取締役が任務を怠り会社に損害を与えてしまった場合、会社や株主に対し損害賠償責任を負わなければならないとされています。
善管注意義務の違反になる行為は?
それではどのような場合に善管注意義務の違反になるのか、主な内容をご紹介します。法令順守(不正行為・法令違反・不当な行為の禁止)
当然のことですが、取締役は業務をする上で、不正行為を行ってはいけません。この「不正」とは法令違反の他に、「コンプライアンス」の違反も含まれます。
法律と法令、条例の遵守はもちろんのこと、その企業・業界の規則、ガイドラインなども含め、コンプライアンスに合致しているかを確認しながら経営を進めていくことが必要です。
また、取締役の判断や行為が不当でないことも善管注意義務の内容です。
「不当」とは具体的な法令違反とはいえないが、妥当性を欠くことをいいます。
取締役は執務を行う時、その目的、手段の両面から妥当性があるかを常に自問自答する姿勢が望まれます。
損害を回避する義務
取締役は、会社から経営を委任された者として、会社に損害を及ぼすことがないように損害を回避する義務があります。そのため、会社の業務や財務状況を適切に監査し、必要に応じて適切な報告を行う義務があります。会社の内部管理体制やリスク管理の不備によって損害が生じる場合、取締役はその責任を問われる可能性があります。
適正な経営判断をする義務
取締役は様々な経営判断を行う際に、善管注意義務に従って適正に行う義務があります。これまで述べてきた不正行為、不当行為、損害を及ぼす行為の禁止などはどれも「行ってはいけない行為」であるのに対し、経営判断は「行うべき行為」な点があります。
経営判断とは、取締役会で審議される重大なビジネス上の判断から、日々の業務で判断される日常的な事柄まで、様々な検討・決定を含みます。仮に取締役が責任の追及を恐れ、経営判断を行わなくなった場合、それは取締役の判断の放棄ということになります。
取締役のあるべき経営判断の姿
会社がこの先更に発展をし続けて行くために、取締役会社経営の中で、時には不確実性の高い新規事業への投資や、レバレッジを効かせた経営戦略への舵切りなど、新たな挑戦へ踏み切らなければならないこともあります。こういった取締役のリスクを冒した意思決定ににおいて、利益が得られた場合は問題ありませんが、結果的に経営判断に誤りがあった(損失を被った)ことが判明した際に、単に失敗したという結果的な責任を問われてしまうと、意思決定の際に萎縮して適切な意思決定が不可能になり、経済活動が停滞するおそれがあります。
そこで、そのような場合に取締役が行った経営判断について、法的責任を判断する際の基準となる考え方が、「経営判断の3原則」です。
経営判断の3原則
経営判断の3原則とは次の場合をいいます。「取締役は経営判断に対して、
① 的確な調査を行い
② 適切な検討プロセスを経て
③ 結論も不合理とはいえない
の3つを満たしていれば、たとえ判断の結果会社に損失が生じたとしても、善管注意義務違反として責任を問われることはない」
この3点については、判例上では「著しく不合理な調査や会議ではないこと、著しく不合理な結論ではないこと」と表現されています。
そのため取締役は、日常的に合理的な調査・会議・結論を目指すべきとなります。
内部統制システムの整備
取締役は善管注意義務の一つとして、内部統制システムの整備の義務を負っています。内部統制システムとは役職員が不正や法令違反を行わないように未然に防止する体制のことです。
健全な経営を行う上で、取締役が全てを監視することは不可能なため、全社的な「体制」つまり「システム」を築いて、制度的に不正や法令違反を防ぐのです。
なお、内部統制については、会社法と金融商品取引法にそれぞれ規定があり、考え方や具体的な目的が異なるため注意が必要です。ここでは、会社法の内部統制のみを案内いたします。
会社法では、大会社(資本金5億円以上または負債 200 億円以上の株式会社)は、内部統制システムの整備が義務付けられています。(会社法362条5項)
取締役は、その企業が目指す経営理念に対し、各種の社内規則(企業行動基準、職務分掌規程、コンプライアンス規定、就業規則など)が整合性をもって整備されているかを、内部通報制度や社内周知の取り組みとあわせて確認し、事業報告や有価証券報告書などで開示していく必要があります。
善管注意義務に違反した場合(任務懈怠責任)
取締役は様々な法的義務に囲まれていますが、これらの法的義務に違反した場合、最終的には法に基づき裁判所や法的機関により負担や制約が発生します。法的責任は「民事責任」と「刑事責任」に分かれ、いずれも民事裁判、刑事裁判へ発展していきます。
取締役に対する訴訟は主に「株主代表訴訟」「会社訴訟」「第三者訴訟」の3つに分類されます
株主代表訴訟
株主代表訴訟とは、会社役員が善管注意義務や忠実義務に違反し会社に損害を与えた場合に、株主が会社に代わって会社法第847条等を根拠として役員に対して損害賠償を求める訴えを提起するものです。会社訴訟
会社訴訟とは、会社役員が善管注意義務や忠実義務に違反し会社に損害を与えた場合に、会社が会社法第会社訴訟423条を根拠として損害賠償を求める訴えを提起するものです。第三者訴訟
第三者訴訟とは、会社役員が故意・重過失等によって第三者(取引先、株主等)に損害を与えた場合に、第三者が民法や会社法第429条等を根拠として損害賠償を求める訴えを提起するものです。会社や顧問弁護士の援助が受けられない
これまで案内してきた取締役の法的責任ですが、会社に対する責任が中心になることが多く、責任追及の場面では取締役と会社は対立関係になってしまいます。その場合、取締役自身が個人的に法的責任を追及されことになるため、ほとんどの場合は会社の顧問弁護士に対応を依頼することはできなくなり、損害賠償金や争訟費用も取締役本人の負担となります。
取締役を守るD&O保険(会社役員賠償責任保険)
取締役が前述のように責任が果たせず、訴訟へと発展してしまった場合発生する損害賠償金・争訟費用を補償するD&O保険(Directors&Officerの略)をご存じでしょうか。取締役が、その会社役員としての業務に起因した訴訟に対し、損害賠償金・争訟費用、コンサルティング費用などを補償してくれるD&O保険は、訴訟を受けた場合の相談や対応の進め方などのノウハウも提供されるため、の活用も可能です。
また、判決において支払いを命じられた損害賠償金だけではなく、和解金も補償の対象です。
プランによっては、取締役である執行役員、会社法上の会計参与のほか、支配人その他の重要な使用人(管理職従業員)、社外派遣役員や、ご家族(相続人)も各種費用保険金の補償対象とすることが可能になるため、今一度、自社のD&O保険の契約確認をおすすめいたします。
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【取り扱いのある保険会社】
東京海上日動火災保険株式会社
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参考文書:中島茂「取締役の法律知識」166P~214P、P252~275P