令和元年改正会社法でのD&O保険の新規律は大きく2つ
会社法の一部を改正する法律が令和元年(2019年12月4日)の、2021年3月1日に施行されました。この改正会社法は、会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、「役員等賠償責任保険契約」に係る契約に関する規定と会社補償契約が新たに設けられ、会社役員賠償責任保険(D&O)の契約を締結するための手続き等が会社法上で明確化されました。
※会社補償に関する解説は、次回の別記事でご案内いたします
役員等賠償責任保険契約について
役員等賠償責任保険契約とは
わかりやすくいうと、役員等賠償責任保険契約とは、「株式会社の役員が職務の執行にあたり発生してしまった損害賠償請求を保険で支払うことを認めます」という規定です。その「役員等賠償責任保険契約」にあたる保険商品が「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」となります。
会社役員賠償責任保険(D&O保険)とは
会社役員賠償責任保険はD&O保険(Directors and Officers Liability Insurance) と呼ばれる法人向けの保険です。会社の役員がその業務を遂行するにあたり、過失により株主や投資家、従業員、その他の第三者から損害賠償請求を受けた場合に、役員が個人として負担することになる損害を保険金として受け取ることができます。【会社役員賠償責任保険(D&O保険)の支払われる保険金】
・損害賠償金(判決において支払いを命じられた損害賠償金、和解金等)
・争訟費用(弁護士に支払う着手金や報酬金等)
※訴訟が敗訴となった場合にも補償がされます。
内容の決定・保険料の負担は決議が必要
令和元年改正会社法では、役員等賠償責任保険契約(つまりD&O保険)の内容の決定に関する手続きが新しく明文化されました。(補償契約)
第四百三十条の二 株式会社が、役員等に対して次に掲げる費用等の全部又は一部を当該株式会社が補償することを約する契約(以下この条において「補償契約」という。)の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。
一 当該役員等が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、又は責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用
二 当該役員等が、その職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における次に掲げる損失
イ 当該損害を当該役員等が賠償することにより生ずる損失
ロ 当該損害の賠償に関する紛争について当事者間に和解が成立したときは、当該役員等が当該和解に基づく金銭を支払うことにより生ずる損失
(中略)
4 取締役会設置会社においては、補償契約に基づく補償をした取締役及び当該補償を受けた取締役は、遅滞なく、当該補償についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
第四百三十条の三 株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの(当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。第三項ただし書において「役員等賠償責任保険契約」という。)の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。
こちらにより、新しく役員等賠償責任保険契約の内容を決定する際の手続きとして株主総会(取締役会設置の場合は取締役会)の決議を得る必要があることになりました。
つまり、会社役員賠償責任保険(D&O保険)の契約手続きをするためには、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の決議が必要であり、この決議が通れば会社役員賠償責任保険の契約手続きにおいて、会社が保険料を全額負担することが可能となります。
毎年の更新時にも決議が必要
実際のところ「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」に加入した場合、保険の更新は1年ごとに発生するたため、毎年D&O 保険の契約更新のたびに、株主総会(取締役会設置の場合は取締役会)が必要となります。当社でD&O保険をご契約いただいた法人のお客様は、こちらのことを鑑みて、毎年の定期株主総会時にD&O 保険の保険内容と補償範囲を決定いただく法人様も多くいらっしゃいます。
こちらが抜けてしまうと、臨時総会を実施いただかなく必要があるため、株主総会時の議題としてお忘れないようご注意ください。
なぜ「役員等賠償責任保険契約」の新規定が設けられたのか
ちなみに、「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」は既に日本でも上場会社の9割が加入済みであり、大手企業には普及している保険といえます。以前は、会社と役員との利益相反の観点によりD&O保険の保険料は役員個人が負担されることになっていました。会社法により役員への適切なインセンティブ付与や保険の適切な運用への観点から、会社による役員等賠償責任保険契約の保険料の負担正式に法律で認められたという経緯になります。
「役員等賠償責任保険契約」の情報開示の義務付け
令和元年改正会社法では、役員等賠償責任保険契約について実施しなければならない情報開示が新設されました。以下がその改正箇所です。(株式会社の会社役員に関する事項) 第百二十一条 第百十九条第二号に規定する「株式会社の会社役員に関する事項」とは、次に掲げる事項とする。ただし、当該事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社でない株式会社にあっては、第六号の二に掲げる事項を省略することができる。
三の二 会社役員(取締役、監査役又は執行役に限る。以下この号において同じ。)と当該株式会社との間で補償契約を締結しているときは、次に掲げる事項
イ 当該会社役員の氏名
ロ 当該補償契約の内容の概要(当該補償契約によって当該会社役員の職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合にあっては、その内容を含む。)
三の三 当該株式会社が会社役員(取締役、監査役又は執行役に限り、当該事業年度の前事業年度の末日までに退任した者を含む。以下この号及び次号において同じ。)に対して補償契約に基づき法第四百三十条の二第一項第一号に掲げる費用を補償した場合において、当該株式会社が、当該事業年度において、当該会社役員が同号の職務の執行に関し法令の規定に違反したこと又は責任を負うことを知ったときは、その旨
三の四 当該株式会社が会社役員に対して補償契約に基づき法第四百三十条の二第一項第二号に掲げる損失を補償したときは、その旨及び補償した金額
(株式会社の役員等賠償責任保険契約に関する事項)
第百二十一条の二 第百十九条第二号の二に規定する「株式会社の役員等賠償責任保険契約に関する事項」とは、当該株式会社が保険者との間で役員等賠償責任保険契約を締結しているときにおける次に掲げる事項とする。
一 当該役員等賠償責任保険契約の被保険者の範囲
二 当該役員等賠償責任保険契約の内容の概要(被保険者が実質的に保険料を負担している場合にあってはその負担割合、塡補の対象とされる保険事故の概要及び当該役員等賠償責任保険契約によって被保険者である役員等(当該株式会社の役員等に限る。)の職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合にあってはその内容を含む。)
役員等賠償責任保険契約(つまりD&O保険)について情報開示が必要
上の長い法律引用をD&O保険に関する箇所だけまとめますと、株式会社として会社役員賠償責任保険(D&O保険)に契約するためには、以下の情報開示が必要ということになります。1. 会社役員賠償責任保険(D&O保険)の被保険者の範囲
2. 会社役員賠償責任保険(D&O保険)の内容の概要
・被保険者の役員が実質的に保険料を負担している場合にあってはその負担割合
・補償の範囲となる保険事故の概要
・会社役員賠償責任保険(D&O保険)によって被保険者の役員の職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合にあってはその内容
会社役員賠償責任保険(D&O保険)の保険料の税務上の取扱いについて
令和元年改正会社法では、会社役員賠償責任保険(D&O保険)を締結するための手続等が会社法上明確化されたと同時に、経済的利益の税務上の取扱いについては、国税庁と経済産業省より下記の公表がありました。会社が改正会社法の規定に基づき、当該保険料を負担した場合には、 当該負担は会社法上適法な負担と考えられることから、役員個人に対する経済的利益の供与はなく、役員個人に対する給与課税を行う必要はない。
つまり、株主総会(取締役会設置の場合は取締役会)に基づいてD&O保険の保険料を負担した場合、役員個人への給与課税は行われず、非課税ということになります。
社団・財団・医療法人でも同様の新規定
社団法人、財団法人、医療法人についても、令和元年改正会社法にあわせて各該当法律で「役員等賠償責任保険契約(つまりD&O保険」の新規定が明文化されています。(改正医療法第 49条の4の規定により準用する改正一般社団法人法第 118 条の3第1項)・役員の職務務遂行時での損害賠償請求を、会社役員賠償責任保険(D&O保険)で支払うことを認められた
・会社役員賠償責任保険(D&O保険)の保険料を負担した場合、役員個人への給与課税は行われず非課税
・ただし、会社役員賠償責任保険(D&O保険)の契約・更新は、理事会の決議が必要
・会社役員賠償責任保険(D&O保険)の契約は、以下の情報開示も必要
1. 会社役員賠償責任保険(D&O保険)の被保険者の範囲
2. 会社役員賠償責任保険(D&O保険)の内容の概要
・被保険者の役員が実質的に保険料を負担している場合にあってはその負担割合
・補償の範囲となる保険事故の概要
・会社役員賠償責任保険(D&O保険)によって被保険者の役員の職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合にあってはその内容
まとめ
令和元年改正会社法におけるD&Oの新規律とは、以下となります。・会社役員の職務務遂行時での損害賠償請求を、会社役員賠償責任保険(D&O保険)で支払うことを認められた
・会社役員賠償責任保険(D&O保険)の保険料を負担した場合、役員個人への給与課税は行われず非課税
・ただし、会社役員賠償責任保険(D&O保険)の契約・更新は、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の決議が必要
・会社役員賠償責任保険(D&O保険)の契約は、以下の情報開示も必要
1. 会社役員賠償責任保険(D&O保険)の被保険者の範囲
2. 会社役員賠償責任保険(D&O保険)の内容の概要
・被保険者の役員が実質的に保険料を負担している場合にあってはその負担割合
・補償の範囲となる保険事故の概要
・会社役員賠償責任保険(D&O保険)によって被保険者の役員の職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合にあってはその内容
・社団法人、財団法人、医療法人についても同様
会社補償に関する解説は、次記事でご案内いたしますのでお待ちください。
会社役員賠償責任保険(D&O保険)の契約についての明文化が行われたことにより、賠償リスクを軽減できる会社役員賠償責任保険(D&O保険)への加入に踏み切りやすくなり、役員がより本来の経営業務に力を入れやすくなったといえます。
D&O保険コラムの運営会社ファーストプレイスでは、下記5社のD&O保険(会社役員賠償責任保険)を取り扱っています。
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【取り扱いのある保険会社】
東京海上日動火災保険株式会社
三井住友海上火災保険株式会社
損害保険ジャパン株式会社
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
AIG損害保険株式会社
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