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2025.3.5 取締役の責任

会社役員が事件を起こした場合、どのような責任を負うのか?弁護士が解説

会社役員が事件を起こした場合、どのような責任を負うのか?弁護士が解説

会社役員が何らかの不祥事を起こした場合、直接の被害者に対して負う責任のほか、会社やその株主などに対しても責任を負うことがあります。
特に、任務懈怠責任による損害賠償は高額となるケースがあります。突発的な不祥事の責任を問われるリスクを軽減し、役員の職務に専念してもらうためには、会社として会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入しておくのが安心です。
本記事では、会社役員が事件を起こした場合に負担する法的責任について、弁護士が詳しく解説します。


1. 会社役員が事件を起こした場合に、発生する法的責任の種類

何らかの不祥事を起こした場合は、以下の法的責任を負う可能性があります。
①被害者に対する損害賠償責任
②刑事責任
③会社に対する任務懈怠責任
④第三者に対する損害賠償責任

1-1. 被害者に対する損害賠償責任

不祥事において直接の被害者がいるときは、加害者である役員は被害者に対する損害賠償責任を負います。
たとえば、暴行事件や不倫トラブルなどの個人的な不祥事については、主に被害者に対する損害賠償責任が問題になります。

1-2. 刑事責任

役員の行為が犯罪に当たる場合は、逮捕および起訴されて刑事罰を受ける可能性があります。
暴行事件などの個人的な不祥事に加えて、会社資金の横領や粉飾決算への関与など、役員としての地位を利用した行為も刑事罰の対象になることがあります。
なお、役員としての職務に関連して犯罪行為がなされた場合は、両罰規定によって会社も処罰されることがあるので注意が必要です。

1-3. 会社に対する任務懈怠責任

役員がその任務を怠ったときは、会社に対する損害賠償責任を負います(会社法423条)。
役員が任務を怠ったかどうかは、その地位にある者に要求される注意義務(=善管注意義務)を果たしていたかどうかによって判断されます。
役員としての地位を利用して不正行為をした場合や、監督義務を怠った場合のほか、個人的な不祥事によって会社の評判を落とした場合などにも、任務懈怠責任が認められる可能性があります。
なお、取締役の経営判断のミスによって会社に損害が生じたとしても、その取締役が常に任務懈怠責任を負うわけではありません。リスクテイクに対する萎縮効果を防ぐため、著しく不合理な経営判断がなされた場合に限って任務懈怠責任が生じると解されています(最高裁平成22年7月15日判決)。

1-4. 第三者に対する損害賠償責任

役員がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条1項)。
「第三者」には株主、債権者、取引先などが含まれます。意図的な粉飾決算や横領などをした場合は、幅広い人々に対して損害賠償責任を負うことになってしまいます。

2. 役員の任務懈怠責任は重い|高額の損害賠償が命じられたケースも

役員の会社に対する任務懈怠責任が認められた場合は、会社に生じた損害を賠償しなければなりません。事業の規模などによっては、会社において多額の損害が発生し、役員の損害賠償責任もきわめて高額となるおそれがあります。
たとえば以下の裁判例では、役員に対して高額の損害賠償が命じられました。

2-1. 大阪高裁平成18年6月9日判決|未指定添加物の使用を隠蔽した事例

フランチャイズ・チェーンの飲食店において販売されていた肉まんに、食品衛生法上使用が許されていない添加物(=未指定添加物)が使用されていた事案です。
一部の取締役は、未指定添加物の混入を認識しながら肉まんの販売を続け、さらに混入を指摘した取引先の担当者に口止め料として総額6300万円を支払いました。
未指定添加物混入の事実は結局、匿名通報をきっかけとして大々的に報道されることになりました。飲食店の運営会社は、フランチャイズ加盟店に対する営業補償や、信頼回復のための広告宣伝などによって多額の損失を被ってしまいました。
大阪高裁は、口止め料の支払いを行った2名の取締役に対し、運営会社が被った損害の半額に当たる52億8050万円と、口止め料6300万円の合計53億4350万円の損害賠償を命じました。
さらに、上記2名以外の取締役10名と監査役1名に対しても、未指定添加物の混入を知りながら公表などの検討を行った怠ったことを理由に、それぞれ2億1122万円~5億2805万円の損害賠償を命じました。
上記大阪高裁判決は、最高裁で上告が退けられて確定しています。

2-2. 東京高裁令和元年5月16日判決|粉飾決算で損失隠しをした事例

医療機器メーカーである事業者が、長期間にわたって粉飾決算を行い、巨額の損失を隠蔽していた事案です。
事業者は、バブル期において有価証券を中心とした金融商品への投資を積極的に行っていましたが、バブル崩壊によって多額の損害が発生しました。損失を取り戻すためにハイリスク・ハイリターンの金融商品への投資にも手を出したものの、奏功せず運用損失がさらに膨れ上がりました。
投資による損失を隠蔽するため、含み損のある金融商品をファンドに移転する「損失飛ばし(損失分離スキーム)」という方法が用いられました。
具体的には、ファンドに対して簿価で金融商品を売却することにより、事業者本体においては損失が計上されないまま、金融商品を貸借対照表から除外するという方法です。
「損失飛ばし」に関与した役員は、いずれも逮捕および起訴されて有罪判決を受けました。さらに株主代表訴訟が提起され、東京高裁は3人の役員に対して、総額約594億円の損害賠償が命じました。
上記東京高裁判決は、最高裁で上告が退けられて確定しています。

3. 事件を起こした会社役員を解任する際の手続きと注意点

会社としては、株主などのステークホルダーに対する責任を全うするため、不祥事を起こした役員は速やかに解任することが望ましいです。臨時株主総会を開き、原則として出席株主の過半数による普通決議を行えば、役員を解任することができます(会社法339条1項)。

ただし、解任について正当な理由がない場合は、役員は会社に対して解任による損害の賠償を請求できます(同条2項)。会社としては、役員が起こしたとされる事件について、迅速かつ正確な調査を行ったうえで解任の要否を判断することが求められます。

4. 不祥事に関する会社役員の損害賠償責任が限定されるケース

不祥事に関する会社役員の損害賠償責任には、原則として上限がありません。本記事で紹介した裁判例のように、数十億円や数百億円の損害賠償責任を負うこともあり得ます。

ただし以下に挙げる場合には、不祥事に関する会社役員の損害賠償責任が限定されます。
①総株主の同意によって責任が全部免除された場合
②株主総会決議によって責任が一部免除された場合
③定款に基づき、取締役の過半数の同意によって責任が一部免除された場合
④会社と役員が責任限定契約を締結している場合
⑤会社と役員が補償契約を締結している場合
⑥会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入している場合


4-1. 総株主の同意によって責任が全部免除された場合

役員の会社に対する任務懈怠責任は、総株主の同意によって全部免除することが認められています(会社法424条)。ただし、その他の方法によって任務懈怠を全部免除することはできません。
同族企業などであればともかく、株主が多数に及ぶ場合には、任務懈怠責任の全部免除について総株主の同意を得ることは現実的でないと思われます。

4-2. 株主総会決議によって責任が一部免除された場合

役員が善意でかつ重大な過失がないときは、株主総会の特別決議により、会社に対する任務懈怠責任による賠償額のうち最低責任限度額を超える部分を免除することができます(会社法425条、309条2項8号)。
最低責任限度額は、役員の地位に応じて以下のとおりです。

代表取締役役員報酬の6年分
代表執行役
代表取締役以外の業務執行取締役役員報酬の4年分
代表執行役以外の執行役
上記以外の取締役役員報酬の2年分
会計参与
監査役
会計監査人
ただし、自己のために会社と取引をしたことによる取締役の任務懈怠責任は、株主総会決議によって免除することができません(会社法428条2項)。

4-3. 定款に基づき、取締役の過半数の同意によって責任が一部免除された場合

取締役が2人以上の監査役設置会社、監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社では、取締役の過半数の同意による責任の免除を定款で定めることができます。
その内容は、役員が善意でかつ重大な過失がないときは、責任を負う者を除く取締役の過半数の同意によって、会社に対する任務懈怠責任による賠償額のうち最低責任限度額を超える部分を免除できるというものです(会社法426条1項)。
ただし、責任の免除に同意した取締役は、異議申立てに関する公告または株主への通知を行わなければなりません(同条3項、4項)。手続きが煩雑であるうえに、同意した取締役の責任も問われるリスクがあるため、上記の規定はあまり活用されていないのが実情です。
なお、自己のために会社と取引をしたことによる取締役の任務懈怠責任は、取締役の過半数の同意によって免除することができません(会社法428条)。

4-4. 会社と役員が責任限定契約を締結している場合

業務執行取締役以外の役員(=非業務執行取締役等)については、会社と責任限定契約を締結し得る旨を定款で定めることができます。
責任限定契約の内容は、非業務執行取締役等が善意でかつ重大な過失がないときは、会社に対する任務懈怠責任による賠償額のうち、定款所定金額を超える部分が免除されるというものです(会社法427条1項)。ただし、少なくとも最低責任限度額は支払う必要があります。
責任限定契約の難点は、業務執行取締役は締結できないことです。業務執行取締役の任務懈怠責任を限定するためには、別の方法によるほかありません。
なお、自己のために会社と取引をしたことによる取締役の任務懈怠責任は、責任限定契約によって免除することができません(会社法428条)。

4-5. 会社と役員が補償契約を締結している場合

役員の第三者に対する損害賠償責任等は、株主総会決議(取締役会設置会社では、取締役会決議)に基づいて締結する補償契約により、会社が補償することが認められています(会社法430条の2)。
ただし、補償契約を締結している場合でも、役員自身が会社に対して任務懈怠責任を負う損害や、役員の悪意または重大な過失によって生じた損害は補償されません。

4-6. 会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入している場合

会社が会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入していれば、役員が会社に対する任務懈怠責任や第三者に対する損害賠償責任を負うことになった場合に、保険金によって損害賠償がカバーされます。
犯罪行為や故意の法令違反などは補償されませんが、その他の損害賠償責任については幅広く保険金の支払いを受けることができます。
特に業務執行取締役にとっては、経営判断のミスなどによって損害賠償責任を負うリスクを抑えられるため、安心して職務に取り組むことができるようになるでしょう。
またその他の役員にとっても、就任に伴う損害賠償のリスクが小さくなるため、良い人材を確保できる可能性が高まります。
なお、役員の会社に対する任務懈怠責任をカバーする会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入する際には、株主総会決議(取締役会設置会社では、取締役会決議)でその内容を決定しなければなりません(会社法430条の3)。

5. まとめ

株式会社の役員は、その役割の重要性に鑑み、常に緊張感を持って職務に臨まなければなりません。

暴行事件や不倫トラブルなどの個人的な不祥事は問題外として、役員としての職務に関する不祥事を起こすと、多額の損害賠償責任を負うことがあります。
損害賠償を恐れるあまり、経営判断が萎縮してしまったり、役員への就任そのものを避けられてしまったりすることは、会社にとって好ましくありません。

損害賠償のリスクを軽減し、役員に安心して職務に取り組んでもらうためには、会社役員賠償責任保険(D&O保険)への加入を検討しましょう。

会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入すれば、役員の任務懈怠責任や第三者に対する損害賠償責任が保険金によってカバーされます。会社にとっては、取締役による適切なリスクテイクや、有能な人材の役員招聘に繋がるのが大きなメリットです。

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阿部 由羅
著・監修
阿部 由羅(あべ ゆら)
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw


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