
元従業員や取引先との間でトラブルが発生すると、会社だけでなく役員個人も責任を追及されるおそれがあります。そのようなリスクから役員を守るため、D&O保険への加入などによる対策を検討しましょう。
本記事では、元従業員・取引先との間で想定されるトラブル事例や、トラブルから役員を守る方法などを解説します。
オーナー経営者が損害賠償のリスクを回避したい場合や、優秀な役員を招聘するために補償体制を整えたい場合には、本記事を参考にしてください。
よくある元従業員や取引先とのトラブル事例
会社が元従業員や取引先との間で、トラブルを抱えているケースは少なくありません。まずは、よくある元従業員や取引先とのトラブル事例を紹介します。
元従業員とのトラブル事例
会社と元従業員の間で発生し得るトラブルとしては、以下の例が挙げられます。
①残業代の未払い
②不当解雇
③ハラスメント
②不当解雇
③ハラスメント
残業代の未払い
残業代の未払いは、会社と元従業員の間で発生する典型的なトラブルの一つです。労働基準法により、会社は残業をした従業員に対し、残業代を支払う義務を負います。しかし、残業代の計算方法が誤っていたり、残業時間の把握が漏れていたりして、残業代が未払いとなっているケースが少なくありません。
未払い残業代は、過去3年間に遡って請求が認められています。
従業員1人当たり数十万円から数百万円程度の支払いが想定されますが、多数の従業員から同時に未払い残業代を請求されると、さらに高額の支払いを強いられるおそれがあります。
不当解雇
不当解雇も、会社と元従業員の間で発生しがちな典型的トラブルの一つといえます。会社は従業員を自由に解雇できるわけではありません。客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は無効です(労働契約法16条)。
たとえば単に「気に入らないから」という理由で、社長の独断で従業員を解雇することはできません。1回遅刻をしただけで解雇することもできません。
また、業務上重大なミスをした従業員についても、解雇が認められるとは限りません。解雇に関する制限は、かなり厳格に運用されています。
会社に解雇された従業員は、納得できず会社を訴えるケースが少なくありません。解雇に関する規制が厳しいため、訴えられた会社は厳しい立場に置かれるケースが多いです。
退職する形で和解する場合は、従業員1人につき数百万円以上の解決金を支払う例がよく見られます。
ハラスメント
近年では、職場におけるハラスメントが強く問題視されています。主なハラスメントは以下のとおりです。| 職場におけるハラスメントの主な種類 | 概要 |
|---|---|
| セクシュアル・ハラスメント(セクハラ) | 性的な言動に否定的な反応を示した労働者に不利益を与えること、または性的な言動によって労働者の就業環境を害すること |
| パワー・ハラスメント(パワハラ) | 優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境を害すること |
| マタニティ・ハラスメント(マタハラ) | 妊娠・出産・育児に関する言動によって、女性労働者の就業環境を害すること |
| パタニティ・ハラスメント(パタハラ) | 育児に関する言動によって、男性労働者の就業環境を害すること |
会社は法令の規定により、職場におけるハラスメントを防止する措置を講じる義務を負います。それを怠った結果としてハラスメントが発生した場合は、被害者に生じた損害を賠償しなければなりません。
ハラスメントに関する損害賠償は、被害者1人につき数十万円から数百万円程度が想定されます。
取引先とのトラブル事例
会社と取引先の間で発生し得るトラブルのうち、大きな問題になりやすいものとしては以下の例が挙げられます。
①金銭の未払い
②目的物の契約不適合
③営業秘密の漏洩・秘密保持義務違反
②目的物の契約不適合
③営業秘密の漏洩・秘密保持義務違反
金銭の未払い
金銭の未払いは、企業間取引において最も典型的なトラブルの一つです。たとえば借りたお金を返さない場合、売買代金や請負代金を支払わない場合などが挙げられます。係争額は取引の規模などによりますが、数千万円から数億円以上に上るケースも少なくありません。特に不祥事によって資金繰りが困難となった場合は、役員個人の責任を追及されることも十分想定されるので要注意です。
目的物の契約不適合
売買契約や請負契約の目的物の種類・品質・数量が、契約内容に適合していないことを「契約不適合」といいます。たとえば、以下のようなケースが契約不適合に当たります。
・注文された商品とは違う種類の商品を納品した。
・納品した商品が壊れていた。
・商品の機能に関する説明が誤っており、あると説明した機能が実際には備わっていなかった。
・工事の施工方法が誤っていたため、設計書と異なる仕様の建物が完成してしまった。
・100個の商品を注文されたのに、実際に納品したのは98個だった。
など
・納品した商品が壊れていた。
・商品の機能に関する説明が誤っており、あると説明した機能が実際には備わっていなかった。
・工事の施工方法が誤っていたため、設計書と異なる仕様の建物が完成してしまった。
・100個の商品を注文されたのに、実際に納品したのは98個だった。
など
契約不適合については、売主(請負人)が買主(注文者)に対して責任を負います(=契約不適合責任)。
具体的には、目的物の修補や代金の減額、損害賠償を請求されることがあるほか、契約を解除して代金全額の返還を請求されるおそれもあります。
契約不適合責任を追及された場合の損失額は、取引の規模や不適合の内容などによりますが、数千万円から数億円以上に上るケースもあるので要注意です。
営業秘密の漏洩・秘密保持義務違反
取引先から開示を受けた営業秘密を無断で第三者に開示することは、不正競争防止法違反に当たります。この場合、取引先は開示の差止めや損害賠償を請求することができます。また、取引に先立って秘密保持契約を締結している場合や、取引に関する契約において秘密保持義務が定められている場合は、自社に課された秘密保持義務を遵守しなければなりません。
秘密保持義務に違反すると、取引先に対して損害賠償責任を負う可能性があるので注意が必要です。
営業秘密の漏洩や秘密保持義務違反により、取引先の信用が毀損されて収益が低下した場合などには、数千万円から数億円以上の損害賠償を請求されるおそれがあります。
元従業員や取引先とのトラブルが起こると、役員個人も訴えられることがある
会社が元従業員や取引先から損害賠償請求などを受けると、取締役などの役員個人も訴えられることがあります。元従業員や取引先とのトラブルにより、役員個人が当事者となる訴訟としては、以下の例が挙げられます。
①任務懈怠責任を追及する株主代表訴訟
②役員を名指しした損害賠償請求訴訟
②役員を名指しした損害賠償請求訴訟
任務懈怠責任を追及する株主代表訴訟
会社が元従業員や取引先に対して損害賠償責任を負う場合、会社にはその支払いによって損害が発生します。役員が任務を怠った結果として、元従業員や取引先とのトラブルが発生した場合には、会社に生じた損害を賠償しなければなりません(会社法423条1項)。これは会社に対する「任務懈怠責任」と呼ばれています。
役員に対して任務懈怠責任を追及するのは会社ですが、その意思決定は取締役が行います。身内同士で厳しく任務懈怠責任を追及することは、必ずしも期待できません。
そこで、会社法では「株主代表訴訟」という制度が設けられています(会社法847条)。
一定の要件を満たす株主は、会社に対して任務懈怠責任を追及する訴訟を起こすよう請求できます。会社が行動しない場合は、株主が自ら訴訟を起こせるようになります。
株主代表訴訟などによって任務懈怠責任を負うことが確定した場合、役員はトラブルによって会社に生じた損害額を上限として、会社に損害賠償を支払わなければなりません。
トラブルの内容や規模によりますが、数千万円から数億円以上の損害賠償責任を負うこともあり得るので要注意です。
役員を名指しした損害賠償請求訴訟
役員がその職務に関し、悪意または重大な過失によって第三者に損害を与えたときは、その損害を賠償しなければなりません(会社法429条1項)。会社の行為によって元従業員や取引先が損害を受けた場合も、上記の規定が適用されます。
役員が意図的に法令違反を犯した場合や、重大な見落としによってトラブルを発生させた場合などには、元従業員や取引先が個人を名指しして訴訟を提起するかもしれません。
訴訟で損害賠償責任が認められると、役員個人は会社と連帯して、元従業員や取引先に対して損害賠償を支払う義務を負います。その金額は、数千万円から数億円以上に及ぶこともあり得るので十分ご注意ください。
オーナー経営者以外の役員も、損害賠償責任を負う可能性がある
オーナー経営者以外の取締役や監査役なども、会社から任務懈怠責任を追及されたり、元従業員や取引先から直接損害賠償責任を追及されたりすることはあり得ます。損害賠償責任を負うリスクは、外部から役員を招聘する際に障害となることがあります。
ミスをしたら数千万円から数億円以上の損害賠償責任を負うリスクがあるとすれば、役員への就任に抵抗感を覚えるのは当然でしょう。
したがって、外部から優秀な役員を呼ぼうとするなら、損害賠償責任のリスクに備えておくことが重要です。
次の項目で紹介する方法などを用いて、役員個人をトラブルのリスクから守りましょう。
元従業員・取引先とのトラブルから役員を守る方法
元従業員や取引先とのトラブルから役員を守る方法としては、以下の例が挙げられます。
①会社と役員が責任限定契約を締結する
②会社がD&O保険に加入する
②会社がD&O保険に加入する
会社と役員が責任限定契約を締結する
会社の業務を執行する取締役(=業務執行取締役)および執行役以外の役員を「非業務執行取締役等」といいます。非業務執行取締役等は、定款に定めがある場合に限り、会社との間で「責任限定契約」を締結できます。
責任限定契約が締結されていれば、対象役員が善意でかつ重大な過失がない場合に限り、定款で定められた上限額を超える任務懈怠責任が免除されます(会社法427条1項)。
ただし、役職ごとに以下の「最低責任限度額」が設けられています。損害賠償責任のうち、最低責任限度額以下の部分は、責任限定契約を締結していても免除されません。
| 役職 | 最低責任限度額 |
|---|---|
|
代表取締役 代表執行役 ※非業務執行取締役等でないため、責任限定契約の締結は不可 |
年間報酬等の6倍 |
|
代表取締役以外の業務執行取締役 代表執行役以外の執行役 ※非業務執行取締役等でないため、責任限定契約の締結は不可 |
年間報酬等の4倍 |
|
非業務執行取締役 会計参与 監査役 会計監査人 |
年間報酬等の2倍 |
また、自己のために会社と取引をしたことによる取締役の任務懈怠責任は、責任限定契約によっても免除されません(会社法428条)。
会社がD&O保険に加入する
役員が損害賠償責任を負うリスクをカバーするためには、会社が「D&O保険(会社役員賠償責任保険)」に加入することが有力な選択肢となります。D&O保険は、役員の会社に対する任務懈怠責任や、第三者に対する損害賠償責任を幅広く補償する保険です。株主総会決議(取締役会設置会社では、取締役会決議)によって内容を決定し、その内容にしたがって会社が加入します。
D&O保険による補償内容は、保険契約の定めに従って決まります。会社と役員が締結する責任限定契約とは異なり、最低責任限度額はありません。
また、D&O保険では弁護士費用も補償されることがあります。
また、役員に対する補償は保険金によって行われます。会社は定期的に保険料を支払えばよく、多額の支払いを免れることができます。
まとめ
会社はさまざまなトラブルのリスクを抱えており、元従業員や取引先から訴えられるリスクもその一例です。元従業員や取引先との間でトラブルが発生すると、会社だけでなく役員個人も訴えられる可能性があります。
損害賠償責任が認められると、数千万円から数億円以上の支払い義務を課されることもあり得るので要注意です。
損害賠償責任のリスクから役員を守るためには、会社が「D&O保険(会社役員賠償責任保険)」に加入することが有力な選択肢となります。D&O保険に加入していれば、仮に役員が損害賠償責任を負うとしても、それを支払うためのお金や弁護士費用が保険金によって賄われます。
特に優秀な人材を外部から役員に招聘する際には、候補者の警戒心や不安を和らげるため、D&O保険に加入していることがアピールポイントの一つになるでしょう。未加入の企業は、D&O保険への加入をご検討ください。
取締役や役員を守るために、今すぐD&O保険の加入をご検討ください
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